メロンパン哀歌

少の頃は、昼食にはパンをいただくというのが普通だった。それも、サンドイッチとかではなく、いわゆる菓子パンを二つか三つ牛乳と一緒に食べる。中学生時代には朝のうちに注文表に記入しておくと、出入りのパン屋さんが、昼までに届けてくれるなんていう制度もあった。

の頃から不思議でならないことがひとつあった。好物のコロッケパンにはコロッケがはさまっているし、あんぱんにはあんこが入っているし、チョコレートパンにはもちろんチョコレートが入っている。これが入っていなかったら、きっとクレームがでるに違いない。三食パンというのもあった。あんことチョコとクリームが全部それぞれ三つのコーナーに入っていて、どこに入っているのかはわからない。それを、次はチョコかな?なんて考えながらかじったものだ。なのに、メロンパンにはメロンが入っていない。形がメロンなんだというけれど、子供心にも、とてもあれがメロンとは思えない。メロンというのは、普通はマスクメロンのことだろう。だとしたらあんなに黄色くはないし、あんなにひらべったいわけもない。

べてみれば、メロンの味がするのかというと、それも実に怪しい。もっとも当時マスクメロンを頻繁に食べたことはないけれど、黄色い砂糖みたいなものがパンの上にべっとりと塗ってあって、後は空しく白いパンのかたまりなのである。いったいどこがメロンなんだろう。それでも時々、このまやかしのメロンパンを買ってしまう。しかも、あのべっとり塗った甘い部分が歯の裏にくっついてしまって、空しさは倍増する。子供を欺くのもいい加減にしてほしいところだ。果汁100%でなければ、ジュースと言ってはいけないんだし、他のパンにはほとんどの場合、表示通りのものが入っているのに、これは不当表示にならないんだろうか。

ころがである。最近某百貨店の地下で、マスクメロンパンなるものを発見した。これで、マスクメロンが入ってなかったら、ただじゃ済まさない。子供の頃の恨みを訴訟の形で晴らしてやる。しかも、新宿の超有名な果実店のブランドなのだ。決して友好的な動機ではなく、長蛇の列に並んでそのパンを買ってみた。ひとつで十分なんだけれど、なぜか五つも買っていたりするところが自分でもばかばかしい性格であると反省する。

んとそのパッケージには、「マスクメロン果汁・果肉入り」なんて書いてあるではないか。メロンパンにメロンが入っているのだ。ああ、それになんとやさしい香りがするんだろう。味もたしかに滅多に食べないけれどマスクメロンのような気がする。なにしろ果汁・果肉入りだから。歯のうらにくっついたりもしない。ふわふわで、あのザラザラの砂糖なんかどこにも使っていない。
 そこで、この頃パン屋を気を付けて覗いてみると、どの店でもメロンパンのコーナーが一番華やかになってい
た。そうか、昔のメロンパンとはきっと違うんだ。同じに見えても、ビジネスの世界では着実に進歩しないものは取り残されてしまうに違いない。しばらく会えなかったあの人も先月よりはきっと進歩している。自分はどうだろうかと恐々振り返ってみたりする。
 本当は、今考えたくもないのだけれど、ウグイスパンにもウグイスは入っていない。